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未病から考える防災対策 〜我慢が招くドミノ倒しと「災害関連死」のメカニズム〜【第9回防災イベント参加レポート②】

こんにちは。上薬研究所の田川信子です。健康管理士として16年にわたり皆さんの健康と向き合う中で、昔の人々が説いた「心身一如(心と体は一つに繋がっている)」という教えの正しさを、身をもって実感する日々です。
前回のレポート①では、被災現場における「におい」や「トイレ問題」がいかに人の尊厳やQOLを脅かすか、そして水分制限や我慢が体調不良を招くことをお伝えしました。前回触れた「我慢のドミノ倒し」ですが、今回はその具体的な体内メカニズム(脳腸相関・血流・自律神経)を、医学的・健康管理士の視点からさらに深掘りして徹底解説します!
「トイレに行けない恐怖」は、単なる不快感にとどまりません。水分を断ち、排泄を我慢したとき、私たちの体内ではどのような異変が連鎖し、命を脅かす「災害関連死」へとつながってしまうのか。その正体と、平常時からできる備えを紐解いていきます。
1. トイレを減らすための「水分・食事制限」という危険な選択

衛生面への不安、長蛇の列、プライバシーの欠如——。過酷な避難環境に直面したとき、多くの人が無意識にとってしまう行動があります。
「トイレに行く回数を減らすために、水を飲むのをやめる」「食事を極力控える」という選択です。
「飲まなければ、出なくて済む」という心理は、極限状態における自然な防衛反応かもしれません。
しかし、この選択こそが体内の恒常性(ホメオスタシス)を崩す最初の引き金になります。
水分や栄養を断つことは、体にブレーキをかけながら無理やりエンジンを回し続けるようなものなのです。
2. ストレスと我慢が招く自律神経と腸の乱れ(脳腸相関)




※会場内に展示されていた災害用簡易トイレや避難施設の設営見本。非常時であってもプライバシーを守り、排泄時の心身の負担を和らげる工夫が凝らされています
脳と腸は、自律神経を介して常に密接な情報をやり取りしています(脳腸相関)。

避難所生活では、非日常の環境や度重なる余震への不安から、交感神経が過剰に優位になりがちです。会場で展示されていたような「安心して使えるトイレ環境」の確保が強く叫ばれているのは、まさにこの心理的ストレスを少しでも和らげるためでもあります。
リラックス時に働く副交感神経が抑え込まれると、胃腸の蠕動(ぜんどう)運動は著しく低下します。そこに「水分の不足」や「我慢」が重なることで便は硬くなり、重度の便秘を招きます。老廃物が体内に留まり続けることで腸内フローラのバランスは崩れ、悪玉菌が優位な状態へと傾いてしまうのです。
J-STAGE(国立研究開発法人 科学技術振興機構:JST)
日本自律神経学会 総説論文『腸内細菌叢を介した脳腸相関のメカニズムと治療応用の新展開』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/62/4/62_130/_article/-char/ja
■ 国も注視する「トイレ問題と災害関連死」の深刻さ
実はこうした「トイレの我慢による健康被害」は、個人の問題にとどまらず、国の防災施策においても最重要課題として位置づけられています。
内閣府(防災担当)が策定した「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」でも、過去の震災において「トイレの不備・不衛生により水分や食事を控えた結果、心身機能の低下や重大な疾患(脱水・血栓症・感染症など)が多発した」という教訓が重く受け止められています。
さらに現在、政府が進めている**「防災庁」の設置に向けた取り組み**においても、従来のインフラ復旧だけでなく、避難環境(TKB:トイレ・キッチン・ベッド)の抜本的な改善や「災害関連死ゼロ」に向けた健康管理体制の強化が大きな柱となっています。
(参考:内閣府 防災情報「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」)
3. 腸内環境の悪化が引き起こす「命のドミノ倒し」

腸の機能低下は、単なるお腹の張りや不快感にとどまりません。全身の健康を支える土台が崩れ、命に関わる二次被害へと連鎖していきます。
- 免疫力の低下と感染症リスク全身の免疫細胞の約7割は腸に集中しています。腸内環境が悪化すると免疫バリアが破綻し、避難所で流行しやすい感染症や、誤嚥性肺炎のリスクが急増します。
- 血流悪化と脱水(血栓リスク)水分を控えることで血液の粘度が高まり、ドロドロになります。車中泊や狭いスペースでの活動制限が加わることで、エコノミークラス症候群、心筋梗塞、脳梗塞といった命に直結する循環器疾患を誘発します。
- 精神的疲弊と気力の減退精神を安定させる神経伝達物質「セロトニン」の生成には、腸内環境が深く関わっています。腸が弱ることで心のバランスを保つホルモンが不足し、不眠や抑うつ状態、生きる気力の減退に拍車をかけてしまいます。
厚生労働省(エコノミークラス症候群の予防のために)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170807.html
厚生労働省(災害時における健康管理)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/tiiki/saigai_00001.html
一般社団法人日本循環器学会(災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2014_shimokawa_d.pdf
一般社団法人日本循環器学会(「避難所における循環器疾患の予防」に関するお知らせ)
https://www.j-circ.or.jp/topics/jcs_notice_20240105_1/
4. 【未病ケアと災害時の健康】のよくある質問②(FAQ)
Q1. 避難所では1日にどれくらいの水分を摂ればいいですか?
A. 成人でおよそ1.5L〜2Lを目安に、こまめに補給することが推奨されます。
一度に大量に飲むと排泄頻度が増えやすいため、「一口ずつゆっくり口に含む」「喉が渇く前に飲む」のがコツです。特に高齢者は喉の渇きを感じにくいため、周囲の声かけが欠かせません
Q2. トイレを我慢しがちな子どもや高齢者への対策はありますか?
A. 携帯トイレをあらかじめ手元に用意し、「いつでも使える」安心感を作ることが第一です。
暗がりや段差への不安からトイレを避けるケースも多いため、ヘッドライトやポータブルトイレの配置など、移動のハードルを下げる工夫が有効です。
Q3. トイレに行きにくくても、お茶やコーヒーなら水分補給になりますか?
A. カフェインを多く含む緑茶やコーヒーは利尿作用があるため、メインの水分補給には向きません。
尿量を増やして脱水を加速させたり、夜間のトイレ回数を増やしたりする原因になります。水分補給は「常温の水」や「ノンカフェインの麦茶・番茶」、塩分と電解質も一緒に補える「経口補水液」などを選ぶのが理想的です。
Q4. 避難生活で便秘が続いています。下剤をすぐに使っても大丈夫でしょうか?
A. 水分が不足した状態での刺激性下剤の使用は、急激な腹痛や脱水を招くリスクがあり注意が必要です。
まずは深呼吸や軽い腹部マッサージで副交感神経を刺激し、少量の水分補給を試みてください。薬を使う場合は、便を柔らかくして自然な排便を促すタイプ(酸化マグネシウム系など)を医師や薬剤師、救護班に相談したうえで服用するのが安全です。
Q5. 車中泊を余儀なくされた場合、エコノミークラス症候群はどう防げばいいですか?
A. 「足先を動かす」「水分を絶たない」「足を心臓と同じ高さに保つ」の3点が鉄則です。
厚生労働省が発信している予防指針でも、災害時のエコノミークラス症候群(急性肺血栓塞栓症)を防ぐために以下のポイントが推奨されています。
- 定期的な足の運動: つま先の上げ下げ、足指のグーパー運動、ふくらはぎの軽いマッサージを行い、筋肉のポンプ機能を動かす
- こまめな水分補給: トイレを気にして我慢せず、十分に水分を摂る(※利尿作用のある過度なアルコールやカフェインは控える)
- ゆったりとした服装: ベルトや下着など体を締め付けるものを緩める
- 足を高くして就寝: クッションや荷物を足元に置き、心臓に近い高さまで足を上げて休む
「トイレが遠いから」「車から出にくいから」と水分を控えて同じ体勢を取り続けることが最大の危険要因です。日頃から車内に携帯トイレを備え、いつでも排泄できる安心感を持っておくことが、脱水と血栓症の最大の防波堤になります。
(参考:厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」)
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5. 健康管理士のひとりごと
展示会場に並ぶ被災地の記録写真や、工夫が凝らされた最新の仮設トイレブースを眺めながら、改めて「防災のリアル」について考えさせられました。
災害が起きた直後は、どうしても「命からがら逃げること」「食料を確保すること」に意識が向きます。もちろんそれは不可欠ですが、健康管理士として現場の記録を見ていると、本当に過酷な戦いは「生き延びた次の日」から始まっているのだと痛感します。
トイレを我慢する。水を控える。その小さな我慢の積み重ねが、知らず知らずのうちに血管を詰まらせ、免疫を落とし、人の尊厳や生きる力まで削り取っていく。「生き延びた命を、二次被害で失わせないために、平常時から体と環境をどう整えておくか」。未病の考え方は、まさにこうした非常時の生存戦略そのものです。
「生き延びた命を、二次被害で失わせないために、平常時から体と環境をどう整えておくか」。
国でも防災庁の発足準備が進むなど、社会全体で避難環境を見直す動きが加速しています。しかし、公助や設備が整うまでの間、極限状態で自分自身の命と健康をつなぎ止めるのは、ほかでもない「私たち自身の平時の健康の土台」です。
道具としての防災グッズ(携帯トイレ等)を揃える「外側の備え」と、過酷な状況でも乱れにくい自律神経や腸内環境を養う「内側の備え(インナー防災)」。この両輪を回すことこそが、未病ケアの真髄だと感じています。
次の最終回(第3回)では、極限状態でも心身のバランスを崩さないための具体的なセルフケアや、私たちが日常から備えておける対策についてお届けします!
著者プロフィール

【執筆・監修】 田川 信子(たがわ のぶこ)
株式会社上薬研究所 カスタマーサクセス / Webコンテンツ管理担当
保有資格: 健康管理士一般指導員(特定非営利活動法人 日本成人病予防協会認定) / 食品表示検定 中級
統合医療の学術団体事務局を経て、16年間にわたり霊芝製品のカスタマーサポートおよび健康相談窓口を担当。累計1,000件以上のお客様の健康相談に寄り添ってきた経験と専門知識を活かし、安心・安全な生活習慣改善と和漢セルフケアの情報を発信しています。
https://www.joyakuken.co.jp/nobuko-tagawa/

